第一話 ハートのお花畑・・・モモのお庭
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第一話
ハートのお花畑・・・モモのお庭
すーーー。すーーー。
からだがきゅっとちぢんでしまいそうな
冷たい風。
「今日は天気が
よくなるって聞いていたのに」
さくさく。
さくさく。
しもばしらを
ふみながら、
ときどき
お外にでて、
遠くの空を見上げるモモ。
「だめよ」
「わかってます」
「風がおしえてくれるから。
それまで待っててね」
あの日から、一、二、三、
・・・百かぞえました。
もっとかな、かぞえきれない日が
たちました。
「あの日ってね。
黄色とオレンジ色に森がそまりはじめた
天気のよい日のこと。
はじめてのモモのお庭に、
ママからもらった赤とピンクとうすバニラ色のチューリップ、
黄色いスイセン、それに紫とピンクのヒヤシンスの球根、
ラベンダーや他にもいろいろお花の種もうめたの」
あれから、ながーい、ながーい
日がたち、
もう雪はほとんどふりません。
すーーー。冷たい風はふくけど、
ときどき、陽ざしはぽかぽか
お外をあたためてくれます。
「今日かな、もうちょっとかな。
明日かな、もう少しかな」
モモは自分のお庭にお花の芽が顔をだすまであと何日か、
かぞえます。
「だってねー。
冬のあいだに、
モモはもう四センチもからだが大きくなったのだから。
それなのに、まだ土の中に眠ったままなの、お花は」
いつ、風がふくか、
誰もわかりません。
びゅーびゅー。びゅーびゅー。
モモのからだの中を
すーっと風がふきぬけていき、
ちょっぴり冷たい感じ。
そっと地面に手をふれると、
ひんやり。
お花の芽はまだ見あたりません。
でも、ほんの少し。
ちょっとね。
赤いシャベルでそーっと
なでるように地面をほるモモ。
もうちょっとかな、
もうちょっとこそ。
つめの長さまで、
こそ、こそ、こそ、こそ、ほると、
「みーつけた」
うすい黄緑色の芽が並んで
かくれていました。
「みーつけた」
「だめよ。お花の芽をきず
つけるから」
「わかってます」
ママの声に、「はじめまして、
とあいさつしたかったの」
モモはいいかえしてしまいました。
うれしい気持ちをおさえ、
おとなしく我慢しまちながら、
お庭を見つめる日が続きました。
ひゅー、ひゅー。ひゅー、ひゅー。
二つめの花風がふきました。
「おやっ、おやっ。冷たくない」
とはいってみたものの、
ほんとは少し寒いけど。
それはともかく、緑色の芽が
ぽこ、ぽこ、ぽこ。
次々に地面から顔を
出しはじめます。
なにもないこげ茶色の地面に、
くっきり緑色のぽこぽこぽこぽこ模様で
ハートのかたちのお庭がえがかれていきます。
ママに見つからないように、
ほんの少し、葉っぱを
こちょ、こちょ、
さわってみました。
「みーつけた。かくれてもだめよ」
葉っぱにつつまれ静かに眠る
お花の赤ちゃんを見つけました。
「だって、緑色ではなく、
何かちがう色が少しまじっているから
すぐお花の赤ちゃんとわかったの」
「だめよ。
むりにふれるとお花のつぼみは
泣いてしまうよ。
そっとね、そっとしててね。まだ眠っているのだから」
「はーい、わかってます」
ふわー、ふわー。
ふわー、ふわーり。
三つめの花風が
やさしくふきました。
モモはおどろくばかり。
約束もしないのに、
お空に向かい、お花のくきはむくむく大きくなります。
モモのからだが半分かくれるまで高くなるのです。
つぼみはくっきり顔をだしはじめ、
日に日に
いろんな色がうかびあがります。
はじめてクレヨン箱のふたを
開けたとき、
たくさんの色を見て
うれしかったことを
おもいだしました。
どの色もみんな大好きに
なります。
嫌いな色なんかありません。
「だめよ。
つぼみにさわらないで、そっとみまもってね。
かげでこっそりさわってもだめよ」
「わかってるっていったでしょ」
ほわー、ほわー。ほわ、ほわ、ほわ。
四つめの花風もやさしく、
そしてお外ぜんぶをつつんでくれます。
いい気分、暖かくて。
からだの中までぽかぽか。
息を吸ってもいい気分。
突然、つぼみがぱーっと
開きはじめたのです。
それは、いつ来るのか知りませんでした。
「花びらの中をのぞいてごらん」
ママがいうとおり、
モモは鼻がふれるくらいまで
お花に近づき、そっとね、
中をのぞいてみました。
お花の中には、小さくきちんと並んだお花畑があるのです。
不思議でした。
ほわーん、ほわーん。
ほわーん、ほわーん。
五つめの花風はいそぎ足でやってきました。
風といっしょに楽しそうにお花はゆれながら踊ります。
「わかっています。見ているだけ」
「ちがうの。
モモとおなじく、ずーっとお花が咲くのを待っていた
おともだちがもうすぐやってくるから。
まっててね」
ママのいうことはよくわからないけど、まーいいか。
やっと、お花いっぱいにハートのお庭がきれいにできたのだから。
モモは見るだけでも
うれしかったのです。
でも、そんな思いの日は少しだけ。
六つめの花風は思わぬかたちでやってきました。
かぜにのって、
ひらひらひら。ひらひらひら。
お花にとまって、ぱたぱたぱた。
ぱた、ぱた。
からだじゅう、
たくさんの点々色で
おめかししたちょうちょさんは
花にとまっては、風にのり、
楽しそうです。
ハートのお庭はしだいに
たくさんのちょうちょさんが
集まりはじめました。
ちょうちょさんは忙しそうです。
すごい速さで、
ぐにゃぐにゃストローでお花の蜜をすっているんだって、
ママが教えてくれました。
モモのお庭はしだいに
にぎやかになります。
ぷーん、ぷーん。
ぷんぷんぷんぷんぷーん。
いつの間にか、にくきゅうより、つめよりも小さな、
かぞえきれない虫さんが
日の出とともにやってきます。
ぶぉーん、ぶぉーん。
ぶぉーん、ぶぉん。
郵便屋さんが風にのり
音を立てながら
寄り道したかと思うと、
「モモちゃん、
お花いっぱいきれいね」だって。
やっと咲いたモモのお花にともだちもでき、
そして、みんなはうれしそう。
こんなにたくさんあるお花、よろこんでくれるのなら、
ほかのみんなにあげることにしました。
近所にすむみどりカエルさんに、ぱっとおどろくように赤い花を。
郵便屋さんには今度来たら、
青空色の花を。
ルリ姫にはお日さまみたいなオレンジ色。
ママにはピンクのお花を。
みんな、喜んでくれました。
「ありがとうね」
ママはね、こんな話もしてくれました。
「お花は魔法なの。ほんと。
虫さんにはごちそうだけど。
もし、おともだちが病気のときは
元気を与えてくれるの。
赤ちゃんには元気に育ってねって
夢をあたえてくれるの。
泣いているおともだちは慰めてくれるの。
お誕生日には、いつまでも
幸せになってねって。
どんなときでも、
みんなに希望を与えてくれる
お祈りなのよ、花は。」
みんなに喜んでもらい、
うれしかったモモ。
ハートのお庭に
かんばんをたてました。
[お花さしあげます・・
モモのお花屋さん]
ひょっとしたら
七つめの花風が
ふきはじめたのかもしれません。
ハートのお花畑・・・モモのお庭
すーーー。すーーー。
からだがきゅっとちぢんでしまいそうな
冷たい風。
「今日は天気が
よくなるって聞いていたのに」
さくさく。
さくさく。
しもばしらを
ふみながら、
ときどき
お外にでて、
遠くの空を見上げるモモ。
「だめよ」
「わかってます」
「風がおしえてくれるから。
それまで待っててね」
あの日から、一、二、三、
・・・百かぞえました。
もっとかな、かぞえきれない日が
たちました。
「あの日ってね。
黄色とオレンジ色に森がそまりはじめた
天気のよい日のこと。
はじめてのモモのお庭に、
ママからもらった赤とピンクとうすバニラ色のチューリップ、
黄色いスイセン、それに紫とピンクのヒヤシンスの球根、
ラベンダーや他にもいろいろお花の種もうめたの」
あれから、ながーい、ながーい
日がたち、
もう雪はほとんどふりません。
すーーー。冷たい風はふくけど、
ときどき、陽ざしはぽかぽか
お外をあたためてくれます。
「今日かな、もうちょっとかな。
明日かな、もう少しかな」
モモは自分のお庭にお花の芽が顔をだすまであと何日か、
かぞえます。
「だってねー。
冬のあいだに、
モモはもう四センチもからだが大きくなったのだから。
それなのに、まだ土の中に眠ったままなの、お花は」
いつ、風がふくか、
誰もわかりません。
びゅーびゅー。びゅーびゅー。
モモのからだの中を
すーっと風がふきぬけていき、
ちょっぴり冷たい感じ。
そっと地面に手をふれると、
ひんやり。
お花の芽はまだ見あたりません。
でも、ほんの少し。
ちょっとね。
赤いシャベルでそーっと
なでるように地面をほるモモ。
もうちょっとかな、
もうちょっとこそ。
つめの長さまで、
こそ、こそ、こそ、こそ、ほると、
「みーつけた」
うすい黄緑色の芽が並んで
かくれていました。
「みーつけた」
「だめよ。お花の芽をきず
つけるから」
「わかってます」
ママの声に、「はじめまして、
とあいさつしたかったの」
モモはいいかえしてしまいました。
うれしい気持ちをおさえ、
おとなしく我慢しまちながら、
お庭を見つめる日が続きました。
ひゅー、ひゅー。ひゅー、ひゅー。
二つめの花風がふきました。
「おやっ、おやっ。冷たくない」
とはいってみたものの、
ほんとは少し寒いけど。
それはともかく、緑色の芽が
ぽこ、ぽこ、ぽこ。
次々に地面から顔を
出しはじめます。
なにもないこげ茶色の地面に、
くっきり緑色のぽこぽこぽこぽこ模様で
ハートのかたちのお庭がえがかれていきます。
ママに見つからないように、
ほんの少し、葉っぱを
こちょ、こちょ、
さわってみました。
「みーつけた。かくれてもだめよ」
葉っぱにつつまれ静かに眠る
お花の赤ちゃんを見つけました。
「だって、緑色ではなく、
何かちがう色が少しまじっているから
すぐお花の赤ちゃんとわかったの」
「だめよ。
むりにふれるとお花のつぼみは
泣いてしまうよ。
そっとね、そっとしててね。まだ眠っているのだから」
「はーい、わかってます」
ふわー、ふわー。
ふわー、ふわーり。
三つめの花風が
やさしくふきました。
モモはおどろくばかり。
約束もしないのに、
お空に向かい、お花のくきはむくむく大きくなります。
モモのからだが半分かくれるまで高くなるのです。
つぼみはくっきり顔をだしはじめ、
日に日に
いろんな色がうかびあがります。
はじめてクレヨン箱のふたを
開けたとき、
たくさんの色を見て
うれしかったことを
おもいだしました。
どの色もみんな大好きに
なります。
嫌いな色なんかありません。
「だめよ。
つぼみにさわらないで、そっとみまもってね。
かげでこっそりさわってもだめよ」
「わかってるっていったでしょ」
ほわー、ほわー。ほわ、ほわ、ほわ。
四つめの花風もやさしく、
そしてお外ぜんぶをつつんでくれます。
いい気分、暖かくて。
からだの中までぽかぽか。
息を吸ってもいい気分。
突然、つぼみがぱーっと
開きはじめたのです。
それは、いつ来るのか知りませんでした。
「花びらの中をのぞいてごらん」
ママがいうとおり、
モモは鼻がふれるくらいまで
お花に近づき、そっとね、
中をのぞいてみました。
お花の中には、小さくきちんと並んだお花畑があるのです。
不思議でした。
ほわーん、ほわーん。
ほわーん、ほわーん。
五つめの花風はいそぎ足でやってきました。
風といっしょに楽しそうにお花はゆれながら踊ります。
「わかっています。見ているだけ」
「ちがうの。
モモとおなじく、ずーっとお花が咲くのを待っていた
おともだちがもうすぐやってくるから。
まっててね」
ママのいうことはよくわからないけど、まーいいか。
やっと、お花いっぱいにハートのお庭がきれいにできたのだから。
モモは見るだけでも
うれしかったのです。
でも、そんな思いの日は少しだけ。
六つめの花風は思わぬかたちでやってきました。
かぜにのって、
ひらひらひら。ひらひらひら。
お花にとまって、ぱたぱたぱた。
ぱた、ぱた。
からだじゅう、
たくさんの点々色で
おめかししたちょうちょさんは
花にとまっては、風にのり、
楽しそうです。
ハートのお庭はしだいに
たくさんのちょうちょさんが
集まりはじめました。
ちょうちょさんは忙しそうです。
すごい速さで、
ぐにゃぐにゃストローでお花の蜜をすっているんだって、
ママが教えてくれました。
モモのお庭はしだいに
にぎやかになります。
ぷーん、ぷーん。
ぷんぷんぷんぷんぷーん。
いつの間にか、にくきゅうより、つめよりも小さな、
かぞえきれない虫さんが
日の出とともにやってきます。
ぶぉーん、ぶぉーん。
ぶぉーん、ぶぉん。
郵便屋さんが風にのり
音を立てながら
寄り道したかと思うと、
「モモちゃん、
お花いっぱいきれいね」だって。
やっと咲いたモモのお花にともだちもでき、
そして、みんなはうれしそう。
こんなにたくさんあるお花、よろこんでくれるのなら、
ほかのみんなにあげることにしました。
近所にすむみどりカエルさんに、ぱっとおどろくように赤い花を。
郵便屋さんには今度来たら、
青空色の花を。
ルリ姫にはお日さまみたいなオレンジ色。
ママにはピンクのお花を。
みんな、喜んでくれました。
「ありがとうね」
ママはね、こんな話もしてくれました。
「お花は魔法なの。ほんと。
虫さんにはごちそうだけど。
もし、おともだちが病気のときは
元気を与えてくれるの。
赤ちゃんには元気に育ってねって
夢をあたえてくれるの。
泣いているおともだちは慰めてくれるの。
お誕生日には、いつまでも
幸せになってねって。
どんなときでも、
みんなに希望を与えてくれる
お祈りなのよ、花は。」
みんなに喜んでもらい、
うれしかったモモ。
ハートのお庭に
かんばんをたてました。
[お花さしあげます・・
モモのお花屋さん]
ひょっとしたら
七つめの花風が
ふきはじめたのかもしれません。
だんだん種から花を育てる暮らしが少なくなりました。子どもには何もない地面に種をまき、芽が出て、花が育つまでを見せたいものです。あふれる小さな命とつながって生きていることを知ることも深い意味につながっていくと思います。
そして人々の心を癒し救ってきた花のもつ魅力を体感することも、これからの人生で大切かと思います。
そして人々の心を癒し救ってきた花のもつ魅力を体感することも、これからの人生で大切かと思います。