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第五話 ハーブの畑づくり・・アマのお庭

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五話

ハーブの畑づくり・・・アマのお庭

 


そう。

アマはこんなわくわくする、

楽しそうなハーブの畑を

つくりたかったのです。

いや、さっそくつくりはじめます。

それは、愛子の庭の春が終わりに近づき、さわやかな天気のいい日のことでした。

 

「アマ、こっちにきて」

 

「今、いそがしいの。

畑つくったらいくから」

ママの声に、

アマは見向きもしません。

どんな時でも、かならずハーブや花が

元気よく育つという不思議なシャベロで

もくもく畑づくりに夢中です。

 

「こんにちは、アマちゃん。

・・・・・・・・・ありがとう」

黄色と黒がぱちぱち、

飛びちる花火みたいな模様の

アゲハちょうさんの低い声。

そっと耳に入ります。

 

「あのね、今いそがしいの。

花が咲いたらきてね。

花の蜜いっぱいすえるから。

それまで待っててね。ごめんね」

アマは手がはなせないので、

アゲハちょうさんを

横目でしか見ようとしません。

 

「これでいいんだ」

アマを静かに見つめていた

アゲハちょうさんは

ことばを残し、

愛子の森へ吸い込まれるように

光のくずとなって

消えていくのです。

アゲハちょうさんのうしろに、

集まってきたちょうちょさんたちがあと追いしながら、

ゆらゆらゆらゆら、

ゆれるようについていきました。

 

ママは家の窓ごしから、

見つめています。

もくもく、つくりつづける

アマの小さな背中を。

 

今日、こんなにも

ハーブの畑づくりに

夢中になれるアマ。

ずーっとこの日を待ち続けていたのです。

地面には、ローズマリー、ラベンダー、

ベルガモットやレモンバーム、

はちにいれておいた苗をいろいろ並べます。

その中に、

葉っぱがひとつもない、

枝だけのさんしょうの木も

あります。

これらのハーブはぜんぶ、

去年、

秋の終わりに

嵐でめちゃくちゃになった

ハーブの畑で、

どうにか生き残り冬越しした

ものばかりの苗です。


 

ぽきっ。

枯れたようなサンショウの枝のはじっこを折ってみます。

 

「よかった」

枝の中は若々しいクリームミドリ色で

生きていました。

このサンショウの木、

じーっと見つめていると、

楽しかったこと、悲しかったこと、不思議なこと、嫌いだったこと、へんなともだちができたこと、

ひとつひとつの思い出が

今こみあげてきます。

 

「愛子の森にすむ黒猫のおばさんの話」にでてくる畑をつくりたかったアマ。

ほんとうはママから

「いろいろハーブ、ありがとう」って

ほめてもらいたい気持ちも

半分あったけど。

 

こんな思いで、

アマのハーブの畑づくりが

はじまるのでした。

 

 

ここからはひとつひとつ

アマの思い出話

 

たくさんのハーブの苗や花のタネを

ママから用意してもらいます。

 

その中には、

サンショウの幼い木も入っています。

子どものアマにとってはあまり好きでない匂いがするなので、

畑の一番後ろに

植えることにします。

畑のまわりにさくをまわします。

いっぱい花が咲くようにと、

図画紙にクレヨンで花をかいて、

さくにのりでぺたぺたはります。

絵ははがれるかもしれないけれど、

アマは気にしません。

こうして、ハーブの畑づくりが

はじまったのでした。

 

長い雨が続く梅雨が

いっきに明け、夏に。

ハーブも花も

すくすく大きくなり、

すきまなく、

こんもりしていきます。

 

「とってもいいよ、ママ。

いっぱい料理につかってね」

ほかの子猫たちにはない

アマの自慢の話です。

 

でも、そんなよいことばかりでは

ありません。

さいしょ、小さすぎて、

わからなかったれど、

サンショウの葉っぱに鳥のうんち

そっくりの虫がついています。

白と黒の色にすこしばかり茶色がにごったように混じあい汚そうにみえます。

はって歩く、

にょこにょこ虫さんです。



日に日に大きなうんちのように

なっていきます。

ちょっと汚い感じだけど、

いっしょうけんめいサンショウの

葉っぱにしがみつき、たべているので、

好きなようにしてあげようと

思いました。

だって、アマだってラベンダーや

その他のハーブを料理にしようと

葉っぱを

とっているのだから、

虫さんにもすこしわけてあげようと

思ったのです。

 

朝夕、涼しくなり、

夏が終わりかけるころです。

うんちっぽかった、

にょこにょこ虫さんは、

いつのまにか葉っぱ色の

大きなミドリ虫さんに

なっています。

 

これまた、

へんてこりんなかたちでした。

からだはもこもこ、

動きはぐにょぐにょしています。

サンショウの葉っぱは

どんどんたべられ、

はだかのサンショウに

なろうとしています。

もちろん料理には

つかえそうにありません。

元気よく大きくなっていく

ミドリ虫さんねー。

ちょっとだけ、さわってみます。

かたちが面白そうに思えたアマ。

つまむようにちょこんと

背中にふれてみます。

そうすると、オレンジ色のつの、

それもカタツムリさんそっくりのつのを

出しながら反りかえり、

アマの手にふれてきます。

とても臭いこと。

このオレンジ色のつのの匂いは

すぐにはとれない臭さです。

 

たぶんミドリ虫さんは

だれからも、

さわられたくないのかもしれません。

にょこにょこ虫さんのときも

そうだけど、

さわられたくないのかもしれません。

アマはそっとしてあげようと思いました。

邪魔されないように、

いっしょうけんめい

たべているのだから。


そして、ついにサンショウは

葉っぱがなくなり、

臭いにおいを出す

ミドリ虫さんは

いつの間にか、いなくなりました。

夏のあいだじゅう、

ぜんぶ葉っぱをたべ、

まるまるふとったら、

どこかにひっこしたのかもしれません。

 

秋が深まりはじめたころです。

大きな嵐がやってきました。

強い雨がたたきつけるようにふり、

畑は水路になり、

アマの育ててきたハーブの畑はまるごと

流されてしまいました。

 雨上がりにできた水路の

とちゅうとちゅうに、

根っこがむき出しのハーブが

ばらばらにころがっています。

せっかくつくったハーブの畑は

あっという間に流され

消えてしまいました。

わくわくする毎日の楽しみも悲しく消えてしまいました。

今度、つくる時は

水路ができないようにつくろう、

と思うアマ。

ちょっとだけ笑顔をとりもどし、

ばらばらになった、

まだ元気な、少しばかりの

ハーブの苗を集めます。

さくはたおれ、

花をかいた図画紙は

ぐちょぐちょになり、

ぼろぼろに破れ落ちています。

よく見たら、



それにしがみつくように糸でぷらぷら、

ぶらさがり、じーっとしている虫さんを

見つけました。

落ち葉でつくった、

ソフトクリームにもにたかたちの、

大きなさなぎさんです。

水の中に半分

落ちたままでした。

 

「 こんなところにいたの。

あなたでしょう」

すぐ、ミドリ虫さんではないか、とアマはぴんときたのです。夏は鳥のうんちっぽく、夏の終わりにはみどり葉っぱっぽく、

秋になれば落ち葉っぽく。

このさなぎさんは

アマのサンショウの木にいた、

ばけてばかりの虫さんとわかりました。

それも、さなぎさんのかたちは

どう見ても

ちょうちょさんに似ているのです。

ばらばらになった、

さびしいハーブの畑だったけど、

ミドリ虫さんは、落ち葉にばけて静かにさくのところにかくれんぼしていたことがわかったアマ。

冬を越し、

ぽかぽか暖かい春になれば、

今度はちょうちょさんにばける、

いや、ちょうちょさんになるんだと

はじめて知ります。

 

もうすぐ冬。

ぼろぼろ図画紙ごとさなぎさんをひろい、

家に持ち帰ります。

暖かい家の中。

柱にノリでさなぎをちょこんと

くっつけてあげます。

床に落ちないように。

サンショウの葉っぱをたべつくした

虫さんだけど、

たすけてあげました。

いろいろあったけど、

アマのハーブの畑でいっしょに

過ごした、

へんてこりんな

おともだちなのです。

今度は、暖かい家の中で

いっしょに、静かに

春を待つことになりました。

 

雪がふりはじめます。

たいへんだったハーブの庭づくりは

すでに思い出の中。

今はクリスマスを

楽しみにまちます。

 

そして、やってきたクリスマスイブ。

すこしドキドキしながら寝ます。

 

夢を見るアマ。

黒猫のおばさんが現れ、

はなしかけてくるのです。

「アマちゃん。三回もたすけてあげたのね。鳥のうんちみたいなにょこにょこ虫さんにいじわるしなかったこと。二回目はサンショウの葉をぜんぶ食べてしまった臭い匂いを出すミドリ虫さんね。三回目は水路に流されて沈みかけていたさなぎさんをたすけてあげたの。

 

アマちゃんは畑のじゃまものとして見すてなかったの。やさしいアマちゃん、黒猫のおばさんからプレゼント。どんな時でも、かならず素晴らしい畑がつくれる不思議なシャベロよ」

 

夢はそれだけでした。

翌朝、ほかの子猫たちより先に目がさめ、

クリスマスツリーの下にいそぐアマ。

自分へのプレゼントを見つけます。

黒い猫の絵がえがかれたシャベロが入っていました。

夢はほんとうだったのです。

黒猫のおばさんの夢は

ほんとうだったんだ、

とおどろくアマ。

いろいろあって、たいへんだったことは

すべて吹き飛ぶように忘れそうです。

春になったら、このシャベロ、

不思議なシャベロで庭をつくるんだ、とおさえきれない夢はふくらむむばかりです。




そして、

長い冬はおわり。

さわやかな天気のいい日、

まっていた春です。

シャベロをつかう日がきました。

それは、春のちょうちょさんたちが

家のまわりに集まってきた

日でもあります。

今日こそ、ハーブの畑づくりの日なんだ、お祝いにたくさんのちょうちょさんが

来てくれたのね、

とアマは喜び、

不思議なシャベロを

もって庭に飛びだします。

 

そのとき、家の中では

さなぎさんのからだがゆっくり

ふたつにわかれ、

中からアゲハちょうさんが

生まれようとしています。

くしゃくしゃした

黄色と黒模様の紙くずみたいなはねを

ゆっくりのばし、

大きなちょうちょさんに

みるみるなっていこうとしています。

そのすがたを見ていたママは、

家の中にアマを

呼びもどしたかったのです。

 

「アマ、こっちにきて」




五つの物語は幼い子猫たちが主人公。小さな小さな生き物たちとの不思議にみちたであいのお話しです。そこには「みんな生きているんだ」という命の輝きを知りふれあうこと、めぐる季節の中でやさしく見つめていくことを綴りました。